01デメリットとして語られることは「制度上の義務」と「誤解」に分かれます

生活保護を調べていると、さまざまな「デメリット」が目に入ってくると思います。

ただ、それらをよく見ていくと、性質の違うものが混ざっています。
法律が実際に義務として定めていることと、そうではないのに広まっていることです。

厚生労働省は生活保護を「生活に困窮する方の最低限度の生活を保障するとともに自立を支援する制度」と説明しています。
制約があるとすれば、それはこの目的に沿って法律に書かれているものです。

この記事では、次の順で整理します。

  • よく聞かれる「できる?できない?」の早見(車・貯金・カード・家族への連絡など)
  • 法律が実際に定めている義務(4つ)
  • 厚生労働省が「誤解」として否定していること
  • 住まいについて、不動産会社から見た実際

判断の材料になるのは、噂ではなく条文と公式の案内です。

02まず知りたいことに答えます|「できる?できない?」の早見表

細かい説明の前に、よく聞かれる6つについて結論を先にまとめます。
いずれも詳しくは本文で扱います。

気になること 結論の目安
車は持てる? 原則は処分。ただし通勤・通院などで認められる場合があります
持ち家は? 持ち家があっても申請できます。居住用は保有が認められる場合があります
貯金はできる? 保護費をやりくりした貯えは一律禁止ではありません。額や目的により扱いが変わります
クレジットカード・ローンは? 禁止する条文はありませんが、借入は収入として認定される扱いがあり、実務上は難しくなります
生命保険は? 解約が原則ですが、保険の内容によっては継続できる場合があります
家族に知られる? 扶養照会が行われる可能性はありますが、事情によっては行われないことがあります

車・持ち家・生命保険 — 「一律に手放す」ではありません

資産は「最低限度の生活の維持のために活用する」のが原則で、換金できるものは処分して生活費に充てることが求められます。
ただし、どれも一律ではありません。

  • 車:原則は処分ですが、厚生労働省は、通勤用の自動車を持ちながら求職している場合などに処分しないまま保護を受けられる場合があると案内しています。障がいのある方の通院に必要な場合も相談の対象です
  • 持ち家:住んでいる家は保有が認められる場合があります(処分価値が大きい場合を除く)
  • 生命保険:解約して返戻金を生活費に充てるのが原則ですが、内容によっては継続が認められる場合があります。判断は福祉事務所が個別に行います

貯金・クレジットカード — 条文よりも運用で決まる部分

貯金について、保護費をやりくりして貯えること自体を禁止する条文はありません。
保護費のやりくりによる貯えは、使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合、保有が認められます。
一方、保有が認められない物品の購入などを目的とする場合は、状況に応じて収入認定や保護の停止・廃止の対象になることがあります。
どこまでが認められるかは福祉事務所の判断になるため、まとまった貯えをしたい事情(家電の買い替え、子どもの進学など)があるときは、先に担当へ相談しておくのが安全です。

カードの利用と現金の借入は分けて考える必要があります。
キャッシングなどで借りたお金は収入認定の対象になることがあるため、借入や分割払いをする前に、支払いの見通しを担当へ相談してください。
借金があることだけで生活保護を申請できなくなるわけではありません。
返済の相談先についても福祉事務所へ伝えてください。

家族に知られるか — 扶養照会の実際

申請すると、親・子・兄弟姉妹などに「援助ができるか」を確認する扶養照会が行われる可能性があります。
ここで押さえておきたいのは2点です。

  • 扶養照会は申請の条件ではありません。家族に相談してからでないと申請できない、ということはありません
  • 著しく関係が悪い、DVから逃れているなどの事情がある場合は、申し出により照会が行われないことがあります。窓口で事情を伝えてください

03実際にある制約①|生活のしかたに努力義務がある

生活上の努力義務を示す図解

生活保護法第60条は、利用する側の義務をこう定めています。

被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。

一文が長いので分解すると、求められているのは次の4つです。

  • 能力に応じて働くこと
  • 自分の健康を保ち、増進するよう努めること
  • 収入と支出、生計の状況を自分で把握すること
  • 支出の節約を図ること

条文の書き方は「努めなければならない」であり、具体的な数値目標が示されているわけではありません。
生活の立て直しに向けた努力が前提に置かれている制度だということが読み取れます。

04実際にある制約②|収入や住まいの変化を届け出る義務がある

届出義務を示す図解

働き始めたとき、引っ越したとき、家族が増えたとき。
生活の変化があるたびに関わってくるのがこの義務です。

届け出るべきこと

生活保護法第61条は、次の変化があったときにすみやかに届け出るよう定めています。

変化があったこと 具体例
収入の変動 働き始めた、給料が増えた、年金が入った
支出その他生計の状況の変動 生計のしかたが大きく変わった
居住地の異動 引っ越した
世帯構成の異動 同居する人が増えた、減った

届出先は保護の実施機関または福祉事務所長です。
「すみやかに」と書かれているとおり、あとでまとめてではなく、変化があった時点で伝えることが求められます。

黙っていた場合に起きること

生活保護法第63条には、費用返還義務の定めがあります。

被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、…その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

収入などの申告漏れがあると、保護費の調整や返還が必要になることがあります。
資力がある状態で受けた保護費の返還を定める第63条と、不実の申請など不正な手段による受給の費用徴収を定める第78条は、対象が異なります。
収入の変化は速やかに届け出てください。

自治体によって運用が違う部分

当社が生活保護を利用される方の住まい探しでやり取りをしてきた範囲では、提出を求められる書類や見積の取り方は自治体によって異なることが確認されています。
どこまで細かく求められるかは窓口によって幅があります。
案内された内容がこの記事と違っていても、それは誤りとは限りません。

05実際にある制約③|指導・指示に従う義務がある(ただし範囲に歯止めがある)

指導と歯止めを示す図解

「ケースワーカーの言うことにどこまで従うことになるのか」という不安をよく耳にします。

生活保護法第27条第1項は、実施機関が「生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる」と定めています。
ここだけを読むと、何でも指示されるように感じるかもしれません。

ただし、同じ条文には第2項があります。

前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。

指示できる範囲には、法律上の歯止めがかけられています。
「自由を尊重する」「必要の最少限度にとどめる」という2つの条件が明記されているためです。

指導・指示は、自由を尊重し、必要最小限に限られます。
一方、保護の目的に必要な適法な指導・指示には従う義務もあります。
従わない場合には所定の手続きを経て保護が変更・停止・廃止されることがあるため、納得できない場合は放置せず、理由や根拠を確認して相談してください。

06実際にある制約④|資産・収入・健康状態が調査される

調査が行われることを示す図解

「家に来られるのか」という不安は、相談の場でもよく聞かれます。
結論から言えば、調査は制度に組み込まれた手続きです。

生活保護法第28条第1項は、必要があると認めるときに実施機関ができることとして、次を挙げています。

  • 要保護者に対して報告を求めること
  • 職員が居住の場所に立ち入り、資産・収入の状況や健康状態などを調査すること
  • 実施機関の指定する医師または歯科医師の検診を受けるよう命ずること

家庭訪問があるのは、この条文に基づく手続きです。
突然の思いつきで行われるものではなく、制度に組み込まれた過程だと理解しておくと、身構えずに済みます。

なお同条第2項では、申請書やその添付書類の内容を調査するために、扶養義務者などに報告を求めることができるとも定められています。

07申請について誤解されやすいこと

誤解が解けることを示す図解

ここからは、デメリットとして語られがちですが、厚生労働省が「よくある誤解」として否定している事柄です。

書類・住まい・家族

言われがちなこと 厚生労働省の案内
書類が揃わないと申請できない 必要な書類が揃っていなくても申請はできます
住むところがないと申請できない 住むところがない人でも申請できます
施設に入ることに同意しないといけない 施設に入ることに同意することが申請の条件ということはありません
家族に相談してからでないと申請できない 同居していない親族に相談してからでないと申請できない、ということはありません

扶養について補足すると、厚生労働省は「扶養義務者の扶養は保護に優先します」としたうえで、それが申請の前提条件ではないと説明しています。
優先と条件は別のことです。

持ち家・自動車・自営業の道具

資産についても、一律に手放さなければならないわけではありません。

  • 持ち家:持ち家がある人でも申請できます。居住用の持ち家については、保有が認められる場合があります
  • 自動車:処分していただくのが原則ですが、通勤用の自動車を持ちながら求職している場合に、処分しないまま保護を受けることができる場合があります
  • 自営業の道具:自営業のために必要な店舗・器具も、処分しないまま保護を受けることができる場合があります

いずれも「認められる場合がある」という書き方である点は、正確に受け取っていただければと思います。
必ず認められるという意味ではなく、一律に否定されるわけでもない、ということです。

08住まいのデメリットはあるのか|不動産会社から見た実際

仲介会社が説明を引き受けることを示す図解

最後に、住まいについて仲介する立場からお伝えします。

生活保護を利用していても、賃貸住宅への入居を相談できます。
家賃上限や必要な手続きを福祉事務所へ確認しながら、物件を探します。

大家さんに自分で説明する必要はない

もうひとつ、心配されやすいのが「大家さんにどう説明すればいいのか」という点です。

サポルムが仲介する場合は、当社が大家・管理会社への制度説明をお手伝いします。
支給の認定や代理納付など、福祉事務所が担う手続きもあるため、役割分担を確認しながら進めます。

大家さんや管理会社への制度説明に不安がある場合は、サポルムへご相談ください。
当社がお手伝いする内容や、ご本人に確認・説明をお願いする内容を相談しながら進めます。

住まいを考えるときに実際の分かれ目になるのは、次の3点です。

  • 家賃が住宅扶助の範囲に収まるか
  • 転居が必要という判断が出ているか
  • 入居審査を通れる条件が整っているか

住宅扶助の範囲や初期費用の扱いは、生活保護の受給条件 完全ガイドで整理しています。

09利用するかどうかを判断するときの整理

判断を整理することを示す図解

ここまでを踏まえて、判断するときの整理です。

日常で関わってくるのは、次の3つです。
(このほかに第60条の生活上の努力義務があります)

  1. 収入や住まいの変化を、そのつど届け出ること(第61条)
  2. 保護の目的に必要な範囲で、指導や指示が行われること(第27条)
  3. 資産・収入・健康状態について調査が行われること(第28条)

この3つは条文に書かれているもので、自治体によって有無が変わるものではありません。

一方で、持ち家・自動車・家族への相談・住まいの有無を理由に、申請そのものが閉ざされるわけではありません。
厚生労働省が誤解として否定している事柄です。

判断に迷ったときは、条件を自分で当てはめて結論を出す前に、窓口で相談してみることをおすすめします。

住まいのことでお困りの場合は、制度の利用を検討している段階からご相談いただけます。