01まず知りたいことに答えます|家を残せるかの早見表

「持ち家があると生活保護は受けられない」と思われがちですが、そうとは限りません。
まず状況別の扱いをまとめます。
いずれも最終的には福祉事務所の個別判断です。

状況 目安となる扱い 注意点
本人・家族が住んでいる自宅 保有が認められる場合があります ただし「処分価値が利用価値に比して著しく大きい」場合を除きます
空き家・別宅・投資用の不動産 活用(売却等)を求められやすい 生活に必要な資産とは見られにくいためです
住宅ローンが残っている 問題になりやすい 保護費で資産形成を続ける形になるため、個別の確認が必要です
部屋数に余裕がある家 保有は認められても活用を求められることがある 通知では「間貸しにより活用させる」とされています
家を売って賃貸へ移る 先に福祉事務所へ相談 転居費用や売却代金の扱いを確認してから動きます

以下、それぞれを条文と国の通知で確認していきます。

02住み続けられるかを分ける基準は「処分価値と利用価値の比較」です

国の実施要領(局長通知)は、居住用の家屋について次のように定めています。

当該世帯の居住の用に供される家屋 保有を認めること。
ただし、処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは、この限りでない。

原則は「保有を認める」です。
例外にあたるのは、売って得られる金額が、そこに住み続けることで得られる価値に比べて著しく大きいと判断される場合です。

処分価値が利用価値に比べて著しく大きいかの判断が困難な場合は、原則としてケース診断会議などで総合的に検討します。
課長問答では、次の検討事項が示されています。

  • 土地・家屋の見込処分価値の精査
  • 処分の可能性(実際に売れるのか)
  • その世帯が移転できるか
  • 世帯員の健康状態・生活歴
  • 近隣との関係、自立の可能性
  • その地域の低所得者の持ち家状況、土地・家屋の平均面積、地域感情

つまり「いくら以上なら売却」という一律の金額基準があるわけではありません。
高齢や病気で転居が難しい、地域では持ち家が一般的、といった事情も判断材料に入ります。
民間の解説記事では具体的な金額やローン残債の目安が示されていることがありますが、法令・通知で確認できる一律の基準ではないため、この記事では扱いません。
ご自身のケースは福祉事務所にご確認ください。

(根拠: 厚生労働省「生活保護法による保護の実施要領について」〈昭和38年4月1日社発第246号〉第3 資産の活用、および「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」問16。
確認日: 2026年8月31日)

03売却や活用を求められやすいのはこんな場合です

同じ通知は、居住用以外の不動産について厳しい扱いを定めています。

  • 住んでいない家・空き家・別宅 — 居住用ではないため、活用(売却等)の対象になりやすくなります
  • 貸家 — 通知は「貸家は、保有を認めないこと」としています。ただし、要保護と見込まれる期間(おおむね3年以内)の家賃合計が売却代金より多いと認められる場合は、貸家として活用することが認められます
  • 部屋数に余裕がある自宅 — 保有は認められても、通知は「間貸しにより活用させる」としています

また、要保護世帯向け不動産担保型生活資金(自宅を担保に生活資金を借りる制度)が利用できる場合は、まずその利用が優先されるとされています。

04住宅ローンが残っている場合

住宅ローンの返済が残っている状態は、実務上いちばん問題になりやすい点です。
保護費はその世帯の最低生活を保障するためのもので、ローン返済=資産形成に充てることは制度の趣旨に沿わないと整理されるためです。

住宅ローンがあっても申請はできます。
ただし、保護費をローン返済に充てることは原則として認められません。
返済が繰り延べされている場合や、返済期間が短く支払額も少ない場合などの扱いは、福祉事務所へ確認してください。

05持ち家の家賃相当分と、地代・補修費は分けて確認

自分が所有する家の家賃相当額や住宅ローン返済分が、そのまま住宅扶助として出るわけではありません。
ただし借地の地代や、必要な住宅補修費が対象になる場合はあります。

一方で、住宅の維持に必要な補修費については、住宅扶助の範囲に含まれる定めがあります(生活保護法第14条)。
屋根や設備の修繕が必要になった場合は、自己判断で工事を進める前に担当のケースワーカーへ相談してください。

固定資産税については、生活保護を受けている方を減免の対象とする自治体があります。
これは地方税法にもとづく各自治体の税条例・減免規則で定められるもので、対象範囲や手続きは自治体によって異なります。
国が一律に定めた制度ではないため、お住まいの市区町村の税務担当窓口でご確認ください。

06持ち家があっても、申請はできます

家があるうちは、生活保護の相談に行っても仕方がないのではないか。
そう思って動けずにいる方がいます。

厚生労働省は、この点について次のように説明しています。

持ち家がある人でも申請できます。
居住用の持ち家については、保有が認められる場合があります。

申請そのものができないわけではありません。
そして、居住用の持ち家については「保有が認められる場合があります」と書かれています。

ただし、この一文だけで判断すると誤ります。
生活保護法には、資産についての要件を定めた条文があるからです。
次で見ていきます。

07ただし「資産の活用」が要件になっています

資産の活用が要件であることを示す図解

結論から言うと、持ち家があること自体が問題なのではなく、それをどう扱うかが要件になっています。

生活保護法第4条第1項は、次のように定めています。

保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

「利用し得る資産」を「活用する」ことが要件だ、という規定です。
これは補足性の原則と呼ばれます。

一方で厚生労働省は、居住用の持ち家については保有が認められる場合があるとしています。

条文が「活用」を要件としたうえで、厚生労働省が居住用の持ち家について保有が認められる場合があるとしている、という関係です。

具体的な判断事項は国の実施要領に示されています。
前半で説明した処分価値と利用価値の比較、移転の可能性や健康状態などを踏まえ、福祉事務所が個別に判断します。

08住宅扶助は「住居」と「維持に必要なもの」の範囲です

住宅扶助の対象範囲を示す図解

住宅扶助が何を対象にしているのかも、条文で確認できます。

対象を定めているのは第14条です。

住宅扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 住居 二 補修その他住宅の維持のために必要なもの

対象は2つです。
「住居」と、「補修その他住宅の維持のために必要なもの」です。

賃貸の家賃だけが対象、という書き方にはなっていません。

ただし、持ち家の補修が具体的にどこまで対象になるかまでは、条文には書かれていません。

09他の制度が使える場合は、そちらが優先されます

他の制度が先に来ることと例外を示す図解

次に、他の制度との関係です。

第4条第2項にこうあります。

民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。

扶養義務者の扶養と、他の法律に定める扶助は、生活保護に優先するという規定です。

ただし、同条第3項に例外が置かれています。

前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。

「急迫した事由がある場合」には、第1項・第2項の規定が必要な保護を行うことを妨げるものではない、と書かれています。

10資産の状況は調査の対象になります

資産の調査が行われることを示す図解

資産の状況は、申告だけで完結するわけではありません。

第28条第1項が定めているのは、次の内容です。

保護の実施機関は、…必要があると認めるときは、要保護者の資産及び収入の状況、健康状態その他の事項を調査するために、…報告を求め、若しくは当該職員に、当該要保護者の居住の場所に立ち入り、これらの事項を調査させ…ることができる。

資産の状況の調査、居住の場所への立ち入り調査が、条文上の権限として定められています。

なお、居住地や世帯構成に異動があったときの届出は、第61条が定める義務です。
この点は後述します。

11家を手放して賃貸へ移る場合に、実務でつまずきやすいところ

転居のときにつまずきやすい場面を示す図解

家を手放して賃貸へ移ることになった場合の話です。

まず、生活保護法第61条は次のように定めています。

被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。

居住地の異動は届出の対象です。

賃貸へ移る場合は、転居の必要性や家賃上限、初期費用の支給可否を契約前に確認します。
物件を選ぶ前後で必要になる手続きを整理しましょう。

つまずきやすい場面 内容
物件を探す前 受給がまだ確定していない/転居許可が下りていない/希望条件の調整がついていない
契約の手続き中 必要書類や見積の取り方が自治体によって異なる
申込のあと 入居審査

物件の情報収集と相談は並行できますが、契約・費用の支払い前に、転居の必要性と費用の認定を福祉事務所へ確認します。

必要書類や見積の取り方の運用は、自治体によって異なることが当社の実務でも確認されています。
動き出す前に、管轄の福祉事務所へ確認してください。

12判断に迷うときは、確認してから動くほうが早く進みます

確認してから動く手順を示す図解

ここまでを整理すると、次のようになります。

  • 持ち家があっても申請はできる(厚生労働省の説明)
  • ただし、利用し得る資産の活用が保護の要件になっている(第4条第1項)
  • 住宅扶助の対象は「住居」と「補修その他住宅の維持に必要なもの」(第14条)
  • 他の制度が優先されるが、急迫した事由がある場合の例外がある(第4条第2項・第3項)
  • 資産の状況は調査の対象になる(第28条第1項)
  • 居住地が変わるときは届出が必要(第61条)

持ち家の扱いは、法律の原則と国の実施要領を合わせて確認します。
ご自身の場合については、次の情報を福祉事務所へ伝えてください。

確認すること なぜ必要か
いまの持ち家について、保有が認められるかどうか 国の通知には、処分価値と利用価値の比較や、移転可能性・健康状態などの判断事項が示されています。これらを踏まえて、福祉事務所が個別に判断します。
住宅扶助が何にどこまで使えるか 法律・国の実施要領の範囲と個別の必要性を確認するため
転居する場合の必要書類と見積の取り方 運用が自治体によって異なることが当社の実務でも確認されているため

13家を売って賃貸へ移ることを考えるとき

ここからは、住まいの仲介をしている立場からお伝えします。
制度上の判断(保有が認められるか、売却が必要か)は福祉事務所が行うもので、不動産会社が決めることではありません。
そのうえで、売却や転居を検討する段階で実際につまずきやすいのは次の点です。

  • 査定額と手元に残る額は違う — 仲介手数料、抵当権抹消、残債の清算などが差し引かれます
  • 売却には時間がかかる — 買い手がすぐ見つかるとは限らず、数か月かかることもあります
  • 共有名義・相続未登記は手続きが止まりやすい — 名義人全員の同意や、相続登記が先に必要になる場合があります
  • 売却代金の扱いを先に確認する — 手元に入るお金がどう扱われるかは、売る前に福祉事務所へ確認してください
  • 賃貸へ移る場合は上限額と初期費用 — 住宅扶助の上限、敷金等が認められるか、入居審査をどう通すかが論点になります

順番として大事なのは、売却を進める前に福祉事務所へ相談することです。
動いてから相談すると、認識の食い違いで手戻りが生じることがあります。

売却そのものの是非は制度判断に関わるため、まず福祉事務所にご確認ください。